俯いた僕に、Aさんが少し古くなった『○○の友』を出した。
ぼくはその雑誌を手に取る。
何度この表紙を見ただろう。
「お節介と思うんなら聞き流してくれていいよ。」
Aさんの口調が戻っている。
「プロになれるかなれないか別にして・・とにかくこの雑誌に君の小説が載ったわけだ。最優秀がいなくて、君が二席。」
高校2年の秋だった。
冗談のつもりで『新人賞』に応募した。新人賞はとれなかったが、二席に入った。
高校生には不釣合いな賞金をもらい、『春の号』に載せる作品も依頼された。
「え?」という驚きと喜びは「簡単なんだ」という勘違いにすりかわっていった。

「ねぇ・・どうして入賞したかわかる?」
「い・いえ・・」
「一次・二次はぼくら編集者が選考するんだけど・・君のが残ったのは設定が良かったからなんだ。」
「設定?」
「そう。人物設定とその背景・・この雑誌で時代劇をもってきたのは君だけだったし。だって女学生用の雑誌だよ。」
「あ・・・」
とても賞狙いの設定とはいえなかった。
それと同時に自分の馬鹿さ加減が一気に覆いかぶさってくる。
確かに小説が好きで、そのうち自分でも書くようになり、高校の文芸部で出している同人雑誌に投稿してもいた。
「やってみたら?」という友達の言葉で応募した『○○の友』。。
ほとんど遊び半分な気持ちで書いた。
Aさんの言葉、そして純粋に良い雑誌を作ろうという姿勢。
できるなら今すぐに此処から逃げ出したかった。
だけど・・もっとAさんと話していたかった。
不思議な気持ちだった。
これからの生活をどうするか?その現実が迫っているというのに・・
それよりも今はもっとAさんの言葉を聞いていたかった。

何重にも重なっているどうしようもないプライド。
その一枚がようやく剥がれようとしていた。
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