その日、まだ朝の7時だというのにやけに蒸し暑かった。
ぼくは汗をかき、ぼんやりと目を覚ました。
今日は検査の結果を聞きに行く日だった。
それまでに茉莉に連絡したかったが、とうとう電話も出来ずに今日になった。
別に検査結果だけだったので茉莉に連絡を入れる必要はなかったが、あの日以来さらに茉莉の事が気になるようになっていた。
冷蔵庫を開け冷たい水を飲む。
渇いた身体にゆっくりと沁み込んでいく。
それと同時に茉莉の顔と火傷跡が浮かんでくる。
ぼくは無理矢理にそれを心の外に追いやるとカーテンを開けた。
鬱陶しく青葉が繁っている。
葉と葉の間に歪に絡み合って紡いでいる蜘蛛の糸に薄い光が反射していた。

バイクをこの前に止めたところに置いて歩く。
予約では10時からとなっていたが、気分的に落ち着かずに30分以上早く来てしまっていた。
しかし神経は平静さを保っていた。
病院から出してもらった薬が身体に合っているのか、自然な状態のように思える。
ようやくあの薬から抜け出せそうだった。
飲んだ後の罪悪感。
そして飲めば身体を壊すんじゃないかという不安。
しかし自分を何とか平静に保つにはどうしても必要だった。
いけないと思いつつ飲み続けた事が癖になり、ぼく自身を苛めていたのに違いなかった。
それだけにその薬を飲まなくても良いということはほんとに嬉しい。
開放され、浮き立つような気持ちだった。

相変わらず病院は混んでいた。
ぼくは予約のカードを受け付けに出す。
内科の第二診察室で待つように言われた。
ぼくの前に3人が待っている。
・・・予約時間より少し待つな・・・
そう思いシナリオ雑誌を読み始めた時、ぼくの名前が呼ばれ、検査室に行くように院内放送が流れた。
・・・検査?・・・
ぼくは訳が分からずに検査室に行く。
検査室の前で看護士に白い紙コップを渡された。
「Kさんね」
「は・はい・・・」
「この前は尿検査をしなかったから、こちらで取って下さい。コップを棚に置いたら、そのまま診察室に来てくださいね。」
「あ、はい」
ぼくは検査室に入る。
何人かが採血をしている。
点滴を受けて静かに寝ている人も何人かいた。
この検査室から裏を通って診察室に行けるようになっている。
ばくはトイレの後ろにある棚にコップを置くと、薄いクリーム色のカーテンを開けて診察室に向かった。
・・・なんかせわしないなぁ・・・
早く来て少し気持ちを落ち着かせたかったのに、自分のペースに持ち込めないでいる。
少し呼吸が速くなる。
深呼吸をしてから、第二診察室のカーテンを開いた。
「K、Kですけど・・・」
眼鏡をかけた若い医師がぼくを見た。
「あ、入って」
ぼくは診察椅子に座る。
その医師(E医師)は座ったぼくを見ずに、無表情にカルテを読んでいた。
ぼくは用意していた携帯用の魔法瓶から冷水を飲む。
E医師はカルテを読んで小さく頷くと受話器をとった。
「尿の検査結果はまだ?・・・うん、じゃ持ってきて」
E医師はカルテに目を戻す。
「もう少し待ってね、今、尿検査の結果がくるから・・・」
「はい・・・」
ぼくはもう一度大きく深呼吸をした。
カーテンが開き、看護士が入ってくる。
看護士が机の上に白い紙を置いた。
E医師はカルテの横にその用紙を並べて置くと、初めてぼくの方に向いた。
温和そうな顔が少し緊張してるように見える。
その緊張が伝染してぼくの動悸が早くなる。
嫌な予感がした。


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