降り出した雨は夜になっても止まなかった。
ぼくが浪人中とはいえ、食事時は賑やかなものだ。
しかし、今夜は流石にみんなの口は重かった。電報は来なかった。
大学事務局に電話しても、分からないという。合否は電話では教えてくれなかった。
そして気の毒そうに
「電報が来ないのは、駄目だったんだと思いますよ。」
その言葉はとどめの一言だが、それでも電報が来てない事が今では一つの救いだった。
「どうするんや?」
と言う父の言葉に、
「あと一日待って決めるわ」
そういうより仕方なかった。
重い気分で部屋にかえる。強い苛立ちがあった。
不合格という事より、まだ電報に拘っている自分が嫌だった。
後頭部の少し下あたりに無意味な灼熱感があった。
胸も痛い。
この前から時々こうなるが、どうも肉体的なものではないようだ。
引き出しを開ける。
ノートとノートの間に濁った緑色の箱があった。
中から錠剤をだして、口に含む。
怒りに似た感情を抑えられず、6錠程の薬を噛み砕き飲み込んでいた。
苦さが口にひろがる。
その苦さはどこか悔恨をともなってぼくの心をかきむしった。
しばらく俯いていると、嘘のように灼熱感と胸の痛みが消える。
大きく息をすった。
机の上をみる。
T美大付属の入学案内が無造作に置いてあった。
「意味ないなぁ」
今となればN大でなければ駄目とは言わないが、東京に行く意味がないように思われた。
短大(3年制)ということもひっかかる。
どうすればいいんだろう。
無意識のうちに薬をかじりながら、決めなければいけない時期が来ていることを、ぼんやりしてきた意識の隅で感じていた。
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