ぼくは喫茶店の入り口から何とか邪魔にならないところに這って行った。
噴き出した汗もぬぐえなかった。
ただ何故急に発作が襲ってきたのか分からなかった。 今まで何度か小さな発作はあったが今回のような
事は初めてだった。
茉莉に小説の感想を聞くという緊張で起こったとは思えなかった。
ぼくは今までしてきたように何度も深呼吸をする。 薬が効いて来てるのか少し動悸が落ち着いてきている。
しかし圧迫感だけはしつこく居直っていた。
座り込んでいるぼくに容赦なく強い陽射しが降りそそいでくる。
水が欲しかった。
何もする事ができずに座り込んでいるぼくの前に薄い影が降りる。
影が揺れぼくの顔に冷たいタオルがあてられた。
ぼくはその冷たさを貪るように顔を押し付けると、強くタオルを噛んだ。
ほんの少し水分が口の中に入ってくる。
「お水?・・・ね、歩ける?」
ぼくは頷くとゆっくり立ち上がった。
歩こうとして足が縺れる。 まるで悪酔いしてるようだ。
茉莉がそっと支えてくれた。
ぼくはもう一度座ると、茉莉の持って来てくれたタオルを顔にあてた。
大きく深呼吸をする。
何度目かの深呼吸でようやく普通の呼吸ができるようになってくる。
もう一度息をして顔からタオルをはずした。
「大丈夫?」
「う・うん・・・」
立ち上がる。
まだ足は縺れるが何とか歩けた。
汗で湿ったシャツの上から茉莉の手を感じる。
茉莉に誘導されるままに歩きながら、ぼくは恥ずかしくてたまらなかった。
茉莉にどういえば良いのだろう。
どうつくろえば茉莉に発作の事を誤魔化せるだろう。
歩きながらぼくの胸は別の意味でも乱れていた。

ぼくと茉莉はビルの屋上にいた。
高いビルとビルの間。
風が通り抜ける。そして此処には強い陽射しはなかった。
茉莉の持ってきてくれた炭酸水のおかげであれだけ強かった動悸と圧迫感が消えていた。
20錠程の薬はどう効いているのか分からなかった。
ただぼくの意識に薄い膜がかかったようで、ちゃんと思考できてるのかさえ分からなかった。
茉莉はぼくの傍に座っている。
何か話さないと・・・何を?何から?どう?
気ばかりが焦り何の言葉も見つからないぼくに茉莉の方から話しかけてきた。
「T君?」
そう呼びかけてきた茉莉の声にぼくはゆっくり反応した。
茉莉を見る。
差し出された茉莉の手に、あの薬の箱が握られていた。


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